膿んだ傷口に辟易するよりも早く包帯で覆われて、むしろその軽やかな手つきの方に閉口してしまった。隠す覆う塞ぐ閉じる、いきものの生々しさを喜んで縫い合わせて行くこの男は生粋の変態なのだと思う。放置しておけばいいのだ。これが肉だ。これが血だ。これが骨だ。そうやって傷口を開かせておけばいいのだ。風にさらされたそこはきっと酷く痛むだろうけれど、いつまでも傷のことを忘れないでいられる。君はまるで怪我をするのが好きみたいだねと笑うので、手当てがいっぱいできて楽しいだろうと吐き捨てた。真っ白な布でぐるぐる巻きにされていく右腕の、内側、柔らかなところにわずかに爪をたてられる。基本的に非力な闇医者はにこりとして、思い知ったかと言ってのけた。思い知ったさ。あれがどれほど化け物で、自分がどれほどただの人間であるかということを。ミイラのようだ、などという陳腐な喩えはどちらも口にしなかった。塗りつぶされていく身体からはあれの煙草の匂いがする。肺に染み込んだ煙が骨を汚して、脳を燻す。消毒液の刺激と混じり合って、不意に高校時代を思い出した。なんと痛みに満ちた日々だっただろう。俺の皮膚に微かな傷を残した白い爪は、硬くなった包帯の上をかり、と引っ掻いて離れて行った。綺麗な結び目。ループする閉塞。君たちは本当に馬鹿だ。馬鹿なのはあいつだけさ。そう思ってる君が一番馬鹿だ。酷いことを。それが僕の役目なら。切り裂かれた左腕を差し出した。先にこっちを手当てしてほしかったな。医者は笑う、……血を見るのが好きなのかと思ってね。青春の繰り返しだと、嘲笑う声も今は遠く。追憶が血に混じってまたひとつ、ぽたりと垂れた。