「助けてほしいのか」
「何?」

人を射殺せそうな眼光の鋭さで以て顔を上げた臨也を、静雄は淡々と見下ろしてもう一度言った。

「助けてほしいのかって」

ち、と舌打ちひとつで臨也が目をそらす。切れ長の黒い瞳、目尻が少しだけ赤らんでいる。

「出来ないことを口にしない方が良いよ」
「そりゃそうだな」
「それに俺は別に、」
「助けてくれって、」
「シズちゃん」
「……そーいう顔してる、おまえ」
もしかしてこれは修羅場なのかなあ。今更席を立つこともできずにぼんやり彼らを見ていると、静雄がこっちを向いて新羅、と言った。

「なあに」
「お前も、分かんだろ」
「そーね」
「殺すよ?」
「僕ですか」

あれえ僕ですかぁ。まあ立場上僕が一番冷静でなきゃいけないのかなあとは思うけれども。

「でもさ、さっき聞いたんだけど」
「あ?」
「出来ないことを口にするのはダメだって」
「誰が言ったんだよンなこと」
「助けてほしそうな顔のひと」

ぎろりと動いた臨也の目玉がまっすぐ僕を捉えていて、哀しいかな自然と背筋が伸びてしまった。なんで同い年相手にビビらなきゃなんないんだ。

「……この役立たず」
「知ってるー」
「ほんとに、死ねばいいよ新羅は」
「困るの君だよ臨也」
「シズちゃん殺して新羅も死ね」
「結構無理」

組んだ両手に額を当てて、あーだかうーだか言いながら臨也がうつむく。もしかしたら「あ」に濁点付いてるかもね。いやあこれは楽しいな。

「他人事というのは、他人事が故に楽しいものである」
「……」
「……by岸谷新羅」
「……」 「あれノーツッコミ?ツッコミレス?言葉のまじゅちゅし折原臨也が総スルー?」
「言えてねーぞ」
「は、どうせ臨也だって言えないよ」
「魔術師」
「……」
はやくセルティ帰ってこないかなあ。僕が空中を見上げてうふふと笑い始めると、まるで僕なんかいないかのように静雄が大きく足を開いて座りなおした。

「助けてほしいのか」
「何を言わせたい?」
「別に」
「たとえば俺がシズちゃんに泣きついたって、」
「俺は何も」
「出来ないね」
「分かってんじゃねえか」
「最初からそう言ってる。俺は、」
「助けがいらねえなら、」
「逃げろとでも?」
「死ねば逃げられるぞ」
「は、」

顔を上げた臨也が頬杖の姿勢になり、そして傾いた顔が薄く笑う。横柄。

「みんな逃げちゃったらシズちゃんひとりぼっちだね」

静雄がぐっと顔を近づけ、そして彼も笑う。挑発。

「逃げ切った先でひとりぼっちになんのはテメェだろ」

沈黙。静寂を凍らせたような痛々しさが肌を刺す。辛いなら辛いでいいと思うんだけど、このふたりは全くそのへんが馬鹿なので。

「君らもうそのへんに……あーーーーーーーー!!!」
「なんだよ!?」
勢いで静雄を押しのけてしまったがその責めは後でということでいや別に責められたいとかではないけど僕は一息に玄関にたどり着き「おかえりいいいいいい!!!」
『……』
柔らかな黒い肢体を抱きしめていた。開け放したドアからふわりと春の風が入ってくる。

「……っくしゅん」

僕が静雄と助けてほしいひと改め臨也の2人がかりで殴られたのは言うまでもない。臨也に潤んで赤くなった両目がなんだか色気があっていいね夜の人みたいと言ったらセルティにまで 殴られた。春は変態がうろうろする季節です。